だけど、少年の願いは叶う事はない 壱

「それから、すぐ彼女の容態は悪くなった」

もう話し始めてから、どれくらい経過したのだろうか。

モトが隣でおかわりした善哉を平らげていた。

「成功したのにか?」

顔に餡が付いていたが、そこを注意する気すら起きなかった。

「成功と言っても、手術自体であって体力が付いていかなかった」

あの日の手術は心臓の一部を他の医療器具で補うものだった。

詳しいことは分からないが、手術自体は無事に終わった。

ただ、その手術で彼女は疲弊してしまっていた。

「術後の二日間は面会謝絶で、三日目に会った時には、彼女は息を引き取っていた」

手術当日、俺らは彼女に会いに行ったが、病室に入ることは叶わなかった。

その次の日も会えず、結局次に彼女に会えた時は動くことも無く眠りについた後だった。

「葉月…妹からは『何故、手術を止めなかったのか』と、散々罵られたよ」

葬式の日、葉月は俺をただ責め続けた。

今でも俺は、彼女の選択を止めなかったことが正しかったか分からなかった。

智の両親も俺に何も言わずにいた。

彼女の家族のことも考えず、俺は都合良く解釈して彼女の背中を押したのだ。

もしかしたら、死ぬことを怖がっていた智は、止めてほしかったのかもしれない。

それすら、今では誰も分からないことだった。

「それで、『人殺し』か…」

話し終えて黙っている俺を横目に、モトは善哉のお椀を椅子の上に置く。

「最初の質問だが、死んだ人間は様々な形になると思う」

不意に話を切り出されて、俺は戸惑ってしまう。

「どういうことだ?」

「私の憶測だが、この私も以前は生きていた人間だったらしい」

「そうなのか?」

確かに目の前の女の子は、自分で死神と名乗らなければ普通に街を歩いていてもおかしくなかった。

しかし、彼女の言う通りに死神という存在が、元々が人間というのなら死後の世界というのも存在するということだろうか。

「ごく一部の人間は、死神になるらしい」

「らしい?」

「私も他の死神に聞いただけだ」

曖昧な表現が気になるが、それよりももう一つ気になる事があった。

「それ以外の人間は?」

「分からない」

首を横に振った彼女の表情は、今までの表情とは違い、どこかしら不安そうな表情をしていた。

「死後の世界があるとか?」

「あまり期待しない方が良い」

こちらの希望をへし折りように、彼女は残念そうに忠告をする。

「私もそう教えられている」

その言葉に、俺は「そうか」と肩を落とす。

一部が役割を与えられるということなのだろうか。

未知の領域について考えても、常識などというものが通用しないことは以前で学習させられている。

深く考えても無駄だと分かっていた。

それでも俺は、出来る限りの情報を知りたかった。

「生きていた頃の記憶はあるのか?」

また彼女は、首を横に振る。

「記憶は勿論、対象の人間が生前知り合いだったとしても、お互いが分からない様になっている」

「何か悲しいな」

「どうして?」

不思議そうに死神は俺を見てくる。

きっと彼女は人として大事なものも失くしているらしい。

「せめて、生きていた頃の知り合いと再会した時くらい、楽しく話せたら良かったのに…」

「面白い事を言うな、君は」

「そうか?」

俺の言葉に彼女は笑いを堪える様にする。

その素振りがどういう意味か分からなかった。

「死んだ人間とは、役目を一度終えているのだから、登場人物にはなれないのだよ」

何故か彼女の言葉に納得させられてしまった。

「それで、君はこの話をして、どうしたいんだ?」

「いや…特には考えていなかった」

智の事もあったが、それを聞いて何をするかまでは、考えていなかった。

「私は死神だ、君にアドバイスをやる立場ではない」

いつもの常套句だ。

死神様とは仲良くなれないらしい。

「でも、君はもう少し前を向くべきだ…今、君は生きているのだから」

「仮の状態だろう?」

皮肉じみて返すと、彼女は溜め息を吐いて嘲笑を浮かべる。

「勿論だ。だからこそ、君は此処でウジウジ悩んでないで、菅野雪乃を幸せにする方法でも考えるべきだ」

この自称、死神が人間じみていると思ったら、元々が人間なら合点がいく。

しかし、彼女は距離を保ちながらも、俺の事を気遣ってくれているのだ。

冷徹なフリをしているが、本心は良い人間なのじゃないかと思えてくる。

そう考えると、笑えてくる。

「何を、ニヤニヤしているんだ?」

表情に出ていたらしく、彼女の顔が不機嫌になる。

「意外と、モトは優しい人間だったのかもしれないな」

「馬鹿なことを言うな」

と、ツンデレぶりを全開である。

「冗談抜きで、気を抜いていると君が死ぬ事になる」

「しかし、本当にモトは協力的だな」

「私は君を試している側だからな…他の事を気にされていては、試験をする意味がない」

建前上は彼女は試験とするが、俺からすると協力的な試験官で助かっていると思っている。

どんな理由にせよ、俺の事を少しは考えてくれているのだ。

その礼を形にする為、俺は「ありがとう」と一言だけ彼女に伝えた。

そんな俺の目を見て、彼女は今度は深く溜め息を吐く。

「別に、君が生き返る気がないというのだったら、このままでもいいのだからな」

調子に乗りすぎたかもしれない。

でも少しだけ、死神と名乗る彼女の事が分かった気がした。