エピローグ〜死神の独り言

それから少しすると、戸松から連絡があり合流することにした。

本当は誤解を解いて、こちらから告白でもしようかと思ったが、彼女もまださっきの出来事なので、いきなり話しても理解出来ないだろう。

俺らにはまだ時間がある。

明日でも、明後日でも、俺の気持ちを伝えるチャンスはあるのだから。

「もうすぐカウントダウンだよ」

戸松が携帯電話で時間をチェックする。

日付が変わるまで、5分を切っていた。

「お前らカップルは、たまには二人だけでイベントを過ごせよ」

結局、戸松と日高と4人で年を越す事になった。

俺らは境内で新年に賽銭を投げる行列の中、ただ動かない人ごみで時間の経過を待っていた。

「うるさいな」

拗ねる戸松を見て、俺と菅野は自然と笑顔になる。

「それよりも、ボクは二人が何か前までと全然違う雰囲気に驚いているのだけど…」

俺らは顔を見合わせて、吹き出しそうなのを堪えながら、恍けてみせる。

「そうか?」

「あやしいなー」

じっと戸松が俺らを見つめてくるが、今の俺らは言葉を交わさなくても互いの気持ちを理解出来ていると思う。

相手が相手をどれくらい大切に思っているかを。

明日になれば、きっと彼女の記憶からは消えてしまうかもしれない。

それでも、彼女に俺の気持ちが少しでも伝わると信じている。

「そろそろ時間じゃないか?」

屋台で飲み物を買ってきた日高が、走って戻ってくる。

「何買ってきたんだ?」

「いや、かき氷…」

「この寒い中、よく食べられるな」

十二月で皆が寒さで厚手のコートやらジャケットを来ている中で、この日高という男は平気でかき氷を食べている。

その光景は異様だった。

そもそも冬にかき氷を売っている店も凄いと思う。

少し笑い合うと、全員が携帯で時間をチェックする。

もう今年は、1分もない。

「今年は色々あったな」

「うん…」

俺の独り言のような呟きに、菅野が頷く。

みんなが少し黙ると、戸松がカウントダウンを始める。

「9…8…7…6…5…4…3…2…」

一拍空くと、境内に鐘が鳴り響く。

新年の音が、夜の空気に響き渡る。

「あけましておめでとう」

「あけおめ」

など、様々な声が重なって聞こえてくる。

「あけましておめでとう」

日高と戸松が、重ねて挨拶してくる。

「ああ、あけましておめでとう」

年を明けることが出来て、何よりも嬉しかったのは自分が生きている事もだが、菅野の隣で新しい1年を始められたことだろう。

「菅野、あけまし…」

俺が振り返って、菅野のほうを向くと首元に強い衝撃が走る。

変な声を出しそうなのを堪えて、何が起きたか確認する。

首元には腕が回されていて、胸の当たりに菅野の頭があった。

抱きついてきたようだ。

俺は恥ずかしそうになりながらも、外す事ができずに慌てる。

「あけましておめでとう、今年も宜しく」

菅野は少し優しく、ただ嬉しそうにそう言った。

もう外す事も諦めて、俺はこう返す事にする。

「今年も宜しく」

 

 

あの日、私は一つの嘘を吐いた。

それは死神の存在を、彼に明かした時だ。

彼らが抱きしめ合っているのを、私は社の上から見下ろす。

今回は色々と自己満足のために勝手な行動をしすぎた。

上には何て報告したものか…始末書か何かでも書かされるのだろうか。

ここにいても未練が残るだけだろう。

でも、彼がまた幸せについて向き合えるようになって、良かったと思える自分がいる。

最初は死んでしまった自分が、彼の隣に入れない苦しみに悩まされたものだ。

そろそろ次の対象者の所にいかないといけない。

「涼平、バイバイ」

そう言って、私はその場を後にした。