選択

パーティーは予想以上に盛り上がった。

戸松と菅野の滅茶苦茶なテンションはいつものことだが、何よりも平野がそれに混ざって騒ぎだしたのだ。

普段から予想出来ないくらい、年相応の姿に嬉しくなった。

プレゼント交換は、俺のが悠木に渡り、俺には菅野のものが回って来た。

彼女らしくない、雪がクリスタルの中で降り続ける置物だった。

こんな楽しい時間がずっと続けば良いのにと、何度も思わされた。

解散の時には、もうすっかり外は暗くなっていた。

「じゃあ、今日はありがとう」

俺の言葉に戸松はニッコリ笑って、「うん」と答える。

こうやって騒げた事に、大満足なんだろう。

玄関先まで、戸松と日高が見送ってくれる。

「日高は残って行くのか?」

「片付けの手伝いをして帰るよ」

「そうか…」

日高の後ろから、もう一人ひょこっと顔を出す。

「私も少し残るわ」

「結花」

悠木が、何故か残ると言い出す。

それは、まるで何かを企んでいるようだった。

「ボクと今晩少し約束があってね」

「じゃあ、私も…」

「雪乃!」

悠木が菅野に耳打ちをする。

ある程度、何を話しているか察しがつくが、そのやり取りに胸が苦しくなる。

「分かったよ…」

観念したように菅野は、少し肩を落とす。

「お邪魔しました」

そう、俺らは口を揃えて言うと、「また来てね」と戸松が手を振る。

まるで夫婦に見送られているようだ。

いつもなら、そう茶化しているはずだが、俺はそんな余裕はなかった。

「そんなに寂しい?」

急に平野から指摘されて、ドキッとする。

「え?」

「何か寂しそうな顔をしていたから」

「そうだな…寂しくなるな…」

これで皆で過ごすのは最後かもしれない…そう言いたかったが、言葉にしなかった。

戸松の家から少し離れると、水樹と平野は大通りに向けて足を向ける。

「私たちは、バスだから」

平野と水樹は、菅野と違って山の向こうの入賀市に住んでいる。

電車は通っているが、少し不便な場所で、電車だと迂回して余計時間がかかる。

そこで、バスが最短ルートになる。

「じゃあ、また…来年かな?」

「そうだね」

菅野と平野のやり取りに、また俺は胸が苦しくなる。

そのまま二人は、暗い道を歩いてく。

その二人からある程度距離が離れると、俺は口を開く。

「駅まで送るよ」

「ありがとう」

そのまま、無言の時間が過ぎる。

パーティーの間は普通に話せていたが、二人きりになると妙に気まずい。

駅までのあと数十メートルの所で、俺は足を止める。

人気もなく、明かりも夜遅いせいか遠くのコンビニと自販機くらいだった。

俺が立ち止まった事に気付いて、少し先に進んでいた菅野が振り返る。

「涼平?」

「なあ、菅野」

ここまで来て、俺はまだ迷っていた。

この言葉で、全てが決まってしまう。

「この前のことだけど…」

「うん」

菅野の瞳が、まっすぐ俺を見る。

向かい合う俺らの距離が、急に近く感じる。

彼女の表情を向いているのが怖くなり、俺は少し視線を落とす。

これから、俺は俺の望む結末を選択するんだ、そう自分に言い聞かせた。

「俺は、お前とは付き合えない」

「え…」

彼女がピクッと反応する。

吐き出すように、俺はその言葉を彼女に投げかける。

「俺は、お前を友達以上には見れない」

感情を込めるのに精一杯だった。

まるで台本を読んでいるように、俺はその言葉を二度口にする。

「だから、俺はお前とは付き合えない」

二人の間に冷たい静寂が走る。

彼女の肩が小刻みに震える。

そのまま彼女は表情を暗くして、「そ、そうか…」と小さく返事をする。

唇が微かに震えていた。

泣き出しそうな顔で、必死に我慢しているのが分かった。

ただ、俺はその顔を直視出来ずに、お互いが目を合わす事はなく会話が終わる。

自分の気持ちに反した言葉を口にするのが、こんなにも苦痛だとは予想していなかった。

今にも叫びだしたい衝動を堪えた。

「あ、ありがとう…返事してくれて」

「ああ…」

菅野が必死に笑顔を作っているのが分かる。

そんな表情をさせたいんじゃなかった。

でも、俺はこの選択肢を選ぶしかなかった。

どうすることもできかなった。

「気持ちは嬉しかった、ありがとう」

「うん」

「難しいかもしれないけど、今まで通りに話してくれれば嬉しいよ」

「うん」

ぎこちない会話が終了する。

遠くで聞こえる電車の音だけが響く中、俺らはまた黙って俯いてしまう。

右手に自然に力が入る。

どういう言葉を投げかければ良いか、頭が真っ白になって思いつかなかった。

「…そろそろ行くよ」

そう言って菅野は背を向ける。

少し声が涙声だと気付いたが、それを拭う資格を俺は持っていない。

もう、俺は彼女の隣にいる事を諦めたんだ。

そう実感させられた。

俺は彼女を傷つけて、彼女が生きる選択をしたんだ。

「バイバイ」

彼女の別れの挨拶に、俺は何も言えずに背中を見送った。

その姿が駅の中に消えるまで、俺はただ立ち尽くした。

 

 

帰り道の足取りが重かった。

このまま死ぬのだったら、今すぐ殺してほしいとさえ思った。

菅野の最後の表情が焼き付いて、脳裏を離れようとしない。

まるでフラッシュバックのように、何度も何度も繰り返し再生される。

家の玄関をくぐった時には、もう歩く事すらままならなかった。

立っているのもやっとな状態で、玄関先にいた真帆に心配されたが、病み上がりで頑張りすぎたと嘘を吐く。

意識が曖昧で、リビングから話し声が聞こえてくるので真帆に尋ねる。

「智さんの家族が来てるよ…って、お兄ちゃんが葉月さんから連絡貰ったんでしょ?」

そう言えば、そんなこともあったような気がした。

他の事で頭がいっぱいで、日付まで忘れていた。

そのままフラフラになりながら、真帆の手を振りほどいて俺は自室に入る。

ベッドに座り込むと、涙さえ出ない、声にならない叫びを吐き出そうとする。

これで良かったんだ…。

そう自分に言い聞かせるが、今頃になって手が震えだす。

「君は本当にそれで良いのか?」

「いきなり声をかけてくるな」

今、一番話したく無い相手だった。

モトは机の前の椅子に腰を下ろして、呆れた顔で俺を見つめる。

「君と話せる場所が限られているからね」

「それは俺への配慮か?」

「そんなところだ」

京都のときも少しは配慮してほしかったものだ。

しかし、この死神は全部知っている唯一の関係者だけに、俺は何故かホッとしている部分もあった。

誰にもこの苦しみは理解されないのだ。

その苦痛に、俺はこの数日何度も頭がおかしくなりそうだった。

「話は戻るが…」

「これで良いんだよ」

モトの言葉を遮る。

どうせ、こいつは「何で自分の命を投げ捨てるのか?」と聞きたいのだろう。

「理解に苦しむな」

「死神には分からないだろうよ」

「少しも理解出来ない」

「理解して欲しいと思ってない」

これは俺の生き方だ。

こいつに理解してもらおうなんて、微塵も思っていない。

「全てを皆に話せば、きっと君がもし彼女を犠牲にしても誰も君を責めはしないだろう」

「責められたくない、とかではないんだ」

自己責任など恐れていない。

この決断すら、きっと戸松たちからすれば無責任だと怒られるかもしれない。

「それに、『死神が言うには、自分が生きる為には菅野の命を犠牲にしないといけなかった』と、説明して信じてもらえるわけないだろう」

「それもそうだな」

この会話を以前もした気がする。

馬鹿にされている気にもなったが、今はこいつにすら感情をぶつける気にならない。

「では、君は彼女を犠牲にして生きることが辛いのか?」

「そんなことは考えたこともなかったな」

「どういうことだ?」

「俺は、菅野が生きることだけを考えていた…だから、俺だけが生き残った後のことなど考えていなかった」

そうだ、そもそも最初から俺は、自分だけ生き残るということを考えていなかった。

彼女が笑い、彼女が息をして、彼女が一生懸命生きている。

そんな未来を願っていたんだ。

「答えなんて最初から分かっていたんだ…」

そこに自分がいなくても。

「彼女の為なら死ねるというやつか?」

「別に、そんな崇高なものじゃないさ」

「自己犠牲愛ってやつか…そんなの君の自己満足なんじゃないか?」

「自己満足でけっこうさ」

自己満足で充分だ。

この決断に見返りはない。

俺は死ぬし、俺は彼女の隣にはいられない。

そんな未来に何の価値があるのか、正直何も分からない。

でも彼女は生きている、そして幸せになる可能性が残る。

「自分には何も残らなくてもか?」

「でも俺は、彼女が生きて行けることを望むんだ」

その解答に死神は、ははははと声を出して笑う。

「君は本当にお人好しだな…彼女も所詮他人だぞ」

「冷たい意見だな」

いつもと違ってモトの口調が厳しくなるように感じる。

「恋人でも夫婦でも元は他人だ、傷つけ合ったり別れたりするんだ…そんな一時的な感情で、君は自分の命を投げ捨てるというのか?」

「それでも彼女が笑っていられる未来を、俺は望んでいるんだ」

「馬鹿馬鹿しい…君が死んでは元も子もないだろう」

「それでも俺は決めたんだ」

モトの顔を真っすぐ見る。

何故か、彼女の顔が苛立っているように見えた

「自分の幸せを少しは考えたらどうだ?」

「俺は俺の幸せについて考えたんだ」

「その結果がこれか?」

俺は自分の幸せについて考えた。

幸せとは何か。

俺が「そうだ」と答えると、深い溜め息で返される。

「君は馬鹿なのか?」

「きっと他人からすれば、意味が分からない事かもしれない。でも俺は自分の幸せは、彼女が笑っていられることだと思っている…それを自分が見れなくても、俺は彼女が生きていく未来を望んでいる」

深く帽子をかぶり直すと、彼女の顔が凄く悲しそうに見えた。

次の瞬間、ドアがガチャッと開く。

「誰と話しているの?」

真帆かと思ったが、ドアを開けたのは予想外の人物だった。

「葉月…ちゃん」

そこには、顔を歪めた葉月が立っていた。

一人でぶつぶつ喋る、危ない人間だと思われただろうか。

「その女の人は誰?」

俺は驚く。

葉月の目線は俺ではなく、モトを見つめている。

明らかに彼女には、この死神の姿が見えているのだ。

「そうか、君にもやはり見えてしまうのか…」

と、小さく呟くと、彼女は小さく微笑む。

「はじめまして、私はモトと言う」

「こんな時間に女の人を連れ込んで、好い気なものね…この前、京都で一緒にいた女性はどうしたの?」

今度は、軽蔑の眼差しを俺に向けてくる。

葉月はきっと勘違いをしている。

しかし、どう説明したものか…。

「いや、私は死神なのだ」

葉月の顔が硬直する。

それはそうだ、誰でもこうなる。

俺もきっと最初にモトと会ったときに、鏡を見れば同じような顔をしていたに違いない。

すぐに、彼女は俺に敵意を向けてくる。

こんな頭のおかしな子が、何で夜中に部屋にいるのか、それを目で語ってくる。

「どこから説明したら良いのやら…」

迷っていても仕方がない。

きっと凄い異常者を見る目で見られるだろうが、怖がっていては話が進まない。

「信じてもらえないかもしれないが、こいつの言っていることは本当だ」

俺が彼女の言葉を肯定すると、葉月は予想通りの顔をする。

さっきから言葉を発しないのは、もう何を言って良いか分からないのだろう。

その気持ちが、手に取るように分かる。

「お姉ちゃんが死んで、頭が変になっちゃったの?」

葉月の様子を見て、モトは立ち上がる。

「これでは拉致があかないな」

そう言って、俺の机からカッターナイフを取り出す。

そして、カッターの歯を出すと、それを葉月の見えるように持ち直す。

「な、何よ?」

「良いから、しっかり見てろ」

そのままカッターナイフを、モトは自分の手のひらに突き刺す。

しかし、それは血も出ず、歯も折れずにいた。

肉に沈むように、掌にカッターナイフが突き刺さっている。

「手品か、何か?」

「そうじゃないんだ…」

そこで漸く、葉月が目の前にいるのが人間でないと理解する。

「嘘でしょ…」

「なんなら君が、私の額にでも突き刺してくれても良いんだよ」

「遠慮しておく」

少し顔が青ざめながら、葉月は床に座り込む。

目の前にいきなり、自分が抱いていた常識の範囲外にいる存在に出会せば、誰でも腰を抜かしてしまうだろう。

「あ、あんた死んでしまうの?」

「そういうことだな…」

葉月の肩から力が抜けて、がっくり崩れる。

「そんな…」

まさか、彼女がここまでショックを受けてくれるとは思わなかった。

「こいつは自分が生きられるチャンスを、自ら放棄したのだからな」

「どういうこと?」

モトの奴が余計な事を言うせいで、葉月はその言葉に食いつく。

ここまで話してしまうと、全部話さないといけなくなる。

「君がこの前に京都で、この男と一緒にいた女性を幸せにすると、こいつは死ななくて良い」

「なにそれ?」

「俺から説明するよ」

ここまで来たら全部話すしかないと、俺は今までの経緯を話す。

モトに任せていたのでは、相手に半分も伝わらない気がした。

これ以上、誤解を招いたら余計に面倒になる。

そこから俺は、モトの手違いで命を落としたこと、菅野を幸せにすることが条件の賭けをしていること、日高と菅野のこと、京都での出来事から最近の出来事を話す。

彼女は不思議と、最後まで黙って聞いてくれた。

途中で、怒って出て行ってしまうかと思っていた。

「それで?」

「俺は…俺は、菅野が好きだから、菅野に生きてほしいから、俺はこういう選択をしたんだ」

「じっくり考えた?」

「ああ…」

俺が全てを話終えたと理解すると、弱々しく葉月は溜め息を零す。

後味の悪い事を聞かせてしまっただろう。

「君からも、この男の選択が異常だと指摘してあげてほしい」

葉月は顔を上げると、いつもの怒っているような表情になる。

「後悔しないの?」

それが、俺に向けられた言葉だと目線で気付く。

「もちろんだ」

俺の言葉を聞いて、そのまま少しの間見つめ合う。

そして、葉月は立ち上がると同時に、下の階から声が届く。

「もうそろそろ帰るわよ」

「今日は帰るわ…」

そのまま彼女は、ドアを開くと同時にこう残して出て行く。

「年始まではこっちにいるから」

それは、また来るということだろう。

そのまま俺はモトのことなど気にせずに、ベッドに横になる。

少しするとモトの気配もなくなり、取り残された俺は、疲れ果てて気付けば寝ていた。

 

 

翌日も、葉月は家に来た。

年始までは今井家は鈴ノ音町に滞在するので、行き場所もないので来たのだろうか。

クリスマスイブの昼下がり、俺は葉月と何故か自室で黙って向かい合っている。

この意味不明な状況を、誰か此処に来て説明してほしい。

しかも、彼女は少し不機嫌そうだった。

窓の外には澄んだ青空が広がっていて、いつもよりも気持ち暖かいせいで過ごしやすい。

「こんな天気の日ぐらい、外で散歩でもしたら?」

「あの死神はいないの?」

華麗に葉月に無視される。

「さあ、急に居なくなったりするからな」

俺は部屋中を見回したが、こうやって話題にされてもモトは姿を現さない。

監視というのだから、四六時中張り付いているかと思ったが、そうでもないみたいだ。

内心、色んな意味で安心した。

「貴方は納得しているの?」

「何を?」

「こんな選択肢しか残されていないことを…」

こう改めて聞かれると、返事に困る。

「死ぬ事を受け入れたわけじゃない」

「何で抗わないの?」

葉月の冷たい眼差しに、俺は少し萎縮する。

「死神とか、試練とか、私は理解出来ないけど…たとえ、それが本当でも貴方は受け入れてしまうの?」

食い入るように詰め寄ってくる葉月を、俺は振りほどいて背を向ける。

「お前には関係ない」

言った後に後悔するが、時既に遅し。

葉月はカチンと来たのか、俺に更に詰め寄ってくる。

「関係ないわけないでしょ!貴方はお姉ちゃんの分も生きるんでしょ?」

「そんなこと分かっている!」

叫ぶようなボリュームなのが、自分でも分かった。

しかし、感情は抑えきれなかった。

「死ぬのが嫌じゃないわけないだろう!」

そうだ、俺は死にたく無い。

これをずっと考えないようにしていたのだ。

死んだ後のこと、死ぬということはどういうことなのか。

何もかも恐ろしくなって、考えれば考えるほどに生きているのが辛くなる。

死ぬ前に何かしたいという希望さえ、今は持てない。

自分が死んだ後に、それが意味を残すか分からないからだ。

もういっその事、今すぐ命を奪われた方が楽なんじゃないかって思う。

「智はこんな恐怖と戦っていたのか…」

あの頃は智も死との恐怖と戦っていたんだ。

しかも、俺と違って毎日、明日死ぬかもしれない恐怖と隣り合わせで過ごしていたのだ。

改めて、彼女の凄さに驚かされる。

笑って過ごす事は勿論、気が変になってしまいそうだった。

「私、個人は貴方が死のうが朽ち果てようが気にしない…」

「酷い言いようだな」

「でも、他の人は違う…お姉ちゃんだって…」

葉月が黙ってしまい。

俺はかける言葉を失っていると、机の上にあった携帯が鳴る。

着信を見ると、戸松の名前が出る。

昨日の今日だ、良い予感がしない。

とりあえず、電話に出てみる。

「もしもし」

「もしもし、リョウ?」

「ああ」

「なんで、雪乃の告白を断ったんだ?」

やはり予想通りだった。

戸松は昨晩か、今日には昨日の夜に二人で帰ったときのことを探ろうとするだろう。

俺は口を割らない事が分かっているから、必ず菅野に聞くだろう。

「いや、今は彼女の気持ちに応えられないんだ」

「それじゃ、わからないよ」

自分でもどう説明したら良いか分からなかった。

ただ第三者にでも、彼女を嫌いになったとか嘘を吐くことはしたくなかった。

「また、ウジウジ考えているんでしょう?」

「今は、そっとしておてくれないか?」

「事情を教えてくれないと分からないよ」

確かに、戸松からしてみれば俺の行動は意味不明だろう。

でも、今は全てを話す事は出来ない。

「すまない…」

俺はそう言って、受話器を切る。

遠くで戸松の声が聞こえたが、内容までは聞き取れなかった。

「いいの?」
「何がだ?」

「理解されずに死んでいくの?」

「話して理解されないかもしれないし、話して何かが変わるわけじゃない」

相談しても現状を変えられないだろう。

「それに、余計な心配かけたく無い…」

「貴方は本当に馬鹿ね…一人で死んで行くの?」

「そう…だな…」

今は寂しさも苦しさも胸を掻きむしって、今にも泣き叫びたかったが葉月の手前ということで、思いとどまる。

ただ、もう平気な態度も限界だった。

「すまないが、少し一人にしてくれないか…」

俺がそう言うと、葉月は何も言わずに部屋を出て行った。